第十五章
■実母について■

 私には3人の母がいる。生みの母、育ての母、妻の母、現在同居しているのが、妻の母である。青森県出身で大変純朴な人だ。育ての母は施設の園長と言うことになる。

 私の実の母は、天真爛漫なように見えるが、五人の子供を手放さなくてはならぬと言う悲劇を味わっている。

 敗戦という時代の激変に遭遇したとは言え、連れあいの死、いわゆる私の父の死、中国からの引き揚げ、五人の子持ちと言うことで親戚中から総すかんを食う、と言った悲劇に合ったのだ。
 女一人、五人の子持ち、頼る親戚もなく、帰る家もなし。
 「あなたならどうします?」
 「親子6人無理心中ですか」
 それをしなかったから、つらい苦労をしたが今の私があり、私の二人の子供も存在する。

 中川英二郎、中川幸太郎が存在することになるのだ。
 たぶん子供を手放す苦労より、「死を選んだ方がよっぽど楽だった」と今の私なら想像をする。
 「そんな母を誰が攻められますか?」心ない人が
 「何とかなったのではないか?」等と言う人もいるにはいる。そう言う人に限って、もしも自分がそう言う状況に陥ったときに最初に死を選ぶ人だ。

 私は勇気ある母の選択に感謝している。私は母を恨んだことはない。
なぜだか知らないが、五人の子供の中で、私を一番かわいがってくれている。

 「お母さんありがとう。僕たちの音楽を沢山楽しんで長生きをしてください」
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