第四十四章
■サクラメントジュビリー最終日
 
 「さあ、今日ステージを二回やったらコンサートは全部終了だ!」きっかり、8時に起き、入念にトランペットの口慣らしをした。
 「万事OK!」時間通りにボランティアが迎えに来る。
 「Good morning !」この頃になって、やっと照れずに、自然と口をついて出るようになった。しかし、うっかり発音良く見知らぬ人に声をかけようものなら、その十倍ぐらいの英語がかえってくるので目下ボランティア専用の挨拶言葉だ。

 ボランティアが英二郎を呼んで何か一生懸命説明をしている。英二郎が小走りで私たちの所に走ってきた。
 「来年のサクラメントジャズジュビリー出演決定!」英二郎の顔も笑っている。
 「やったね!」ある程度想像をしていたとはいえ、最終日が終わる前に決定が出るとは思ってもいなかった。
 「有終の美を飾るぞ!」日本人のいいところであり、かわいいところでもある。
 こうなったら張り切るしかないだろう。

最終日一回目のステージは、キャパシティ2500は軽くありそうな劇場。
いざ始まってみると、ステージの音響が良くない。演奏していて大変デッド(無反響)なのだ。こういう状況下においては、プレーヤーはどうしても必要以上に大きな音を出してしまう。
 大きな音というのは野外ステージなどでは良いのだが、劇場のような屋内では、音が汚く聞こえて、演奏する方もやりにくいが、たぶん聴く側も余りよい条件とはいえないだろう。なんとかPA(音響係のこと)に合図を送るがとうとう最後まで変わらなかった。

 こういう時は、
 「観客には聞こえている」と言うつもりで、あまり大きな音を出そうとしない方がよいようだ。
 例によってこのステージも英二郎、楠堂浩己、二人のソロの後はスタンディングオーベーションである。後藤雅広、クラリネットのブルース、私のバラードの時は、この広い劇場、物音一つなく私たちの演奏を、受け止めてくれた。
 このステージの始まる前、曲目を決めているとき、観客の一人が、わざわざバンドルームまで来て
 「Big noise from Winettika」と小林真人のベースソロをリクエストしてきた。前日までに、どこかで聴いたのだろう。
やはり 「やらないわけには行かない」本当にこちらの人はこの曲が好きなようだ。
 もちろん小林真人の演奏が終わるやいなや大きな拍手で迎えられたのは言うまでもない。
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