第十八章
■壮行会ライブ、渡米前夜祭ライブ■
 「いよ!いよいよ明日だね」とお客さん。
 「ハイ!」
 「準備はどうだい?」
 「おかげさまで」
 「向こうではどんな曲をやるんだい?」
 「念のためにいろんな曲を持っていきます」
 私はあまり曲目を決めてステージに上がる方ではない。そのときの客の状態、たとえば年齢層、バンドメンバーの調子、等々を考えるのだ。決めてかかるとバンド用語で「コケる」事がある。「コケる」とは、文字通りこちらの目論見とはずれて思わずコケてしまうのだ。
 
 以前にニューオーリンズで街の絵かき屋と知り合いになり、是非私が絵を描いているところで演奏してくれと頼まれたことがあったが、そこでかなりの「大コケ」をしたことを思いだす。トランペットは私、トロンボーンは英二郎、バンジョーは長男の幸太郎だ。いわゆるストリートミュージシャンのまねをしたわけだ。演奏が始まってから観光客が結構集まってきた。ディキシーの曲をやっているうちは良かったのだが、ついサービス精神が出て、アメリカのマーチで有名な「星条旗よ永遠なれ」を演奏した。喜んでもらえると思ったその時、集まっていた観光客が「すぅ−」といなくなったのだ。「しまった!」と思ったときは後の祭りだ。「星条旗よ永遠なれ」は日本人にしてみると「軍艦マーチ」に匹敵するらしい。
 よく外国のレストランのバンドが日本人の顔を見ると「上をむいて歩くこう」などを演奏され白けることがあるが、まさにそれと同じだったのであろう。

 そのような事がないようにレパートリーにも幅を持たせてサクラメントジャズジュビリーに挑むことにした。
 それにしてもこの日のメンバーは何度も言うようだが「なかなか良いゾ」と思わずつぶやくほどの顔ぶれだ。私は思わずこの日の客に言った。
 「今回のメンバーは、120グループ出るバンドの中で、少なく見ても五本の指に入る」
決してはったりではない。これは本心だ。この夜の演奏はアメリカでの予行演習と言って良い。楠堂浩己のドラムソロでこの日の演奏を締めくくった。

「さあ、後は本番だ」闘志がムラムラと沸いてきた。

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