第十六章
■サクラメントジャズジュビリーに向けて演奏曲目の選択■
 話を元に戻そう。
はっきりいってアメリカと日本では演奏される曲目には大きな違いがある。
 日本の場合、ジャズの情報はすべてレコードあるいはCDである。
日本においての演歌を考えてみよう。民謡、畑を耕すときなどの労働歌、子供が歌う童うた、これらは何千年の歴史の積み重ねから生まれたといえる。音階の違い、リズム感の違い、子供の時より耳にする音楽の違いはいかんともしがたい。

 日本の場合のジャズは後天的にレコード或いはCDなど、人工的な音楽媒体から吸収されていると考えられる。そこへいくとアメリカにおいてのジャズは、日本の歌謡曲のようにやはりアメリカの土壌から生まれている。その違いでアメリカにおいて演奏をされる曲目は日本とは大きく違ってくる。それを考えずに日本のままをアメリカに当てはめると大きく空振りをすることになる。

 ステージにたつ者にとってこの空振りほど怖いものはない。
それからというものは、手持ちのCDレコードを聴きまくる毎日だ。
数回のサクラメントジャズジュビリー出演経験から、ある程度の予想、予測がつくのだがそれを今回のバンドメンバーと打ち合わせをしなくてならない。打ち合わせというよりは曲目を全部暗譜するのだ。というとこれをお読みの方は「大変だな」と思われるのだが、実はプロともなるとそのこと自体はそれほど難しいことではない。なんといっても曲目の選定だ。

 あまり細かくアンサンブルを作ってしまうと、音響設備の悪いところなどでは、あっちが出て、こちらが出なかったりして結果は思わしくないと思われる。それよりも、個々のプレーを充実させることを一番の目標にした。今回は日本において最高のメンバーばかりなのでそのことに関しては心配ない。あとはリーダー私のステージの組立方一つだ。

 ステージは一回70分。それを一日三カ所から四カ所。同じ客が「ディキシーサミット」のステージをみる可能性がある。同じプログラムというわけにはいかない。全部チェンジする必要はないが曲目は相当数用意していかなくてはならないだろう。

 場所がカリフォルニアだから「カリフォルニアヒアアイカム」はどうだろう、とか、アメリカだから「星条旗は永遠なれ」などと、とりあえず資料だけは全部持っていくことにした。といっても譜面というのは結構重量がある。絞れるだけ絞って大きなアタッシュケース一個にまとめたが重量にして15kgはあるだろう。メモリ帳が一冊どうしても入らずギターの向里直樹に持ってきてもらうことになったがこれが後々大きな問題となる。この事件は後ほど伝えたい。

 この他バンドのCDを必ず持参するようにとの連絡が入った。通常日本での経験から五十枚もあればまず大丈夫だろうとタカをくくったのも、後で大騒ぎになるのだ。この話も後で記すことにしたい。
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