第四十七章 ■クロージングセレモニー■ |
もちろん観客のお目当ては私たちのディキシーサミットだけではない。私たちの後に始まるクロージングセレモニーを見るのも一つの目的だ。しかし、正式な演奏は私たちのバンドが最後である。 「ディキシーサミット、フロムジャパーン!!」まるでボクシングの選手紹介のような派手なコールがあり一曲目が始まった。 ステージの持ち時間は45分。 「予定した曲はなんとか全部やりたい」そう言う思いもあって、アンサンブル、アドリブコーラスのソロも一人一人短く行くようにした。 「みんな張り切っているな!」快調なソロが続く。一曲目のエンディングはドラムソロ8小節、アンサンブル8小節、演奏形態として一番盛り上がる。ビシっと決まった。 「ワーーー!!!」と言う歓声。ものすごい拍手。私が挨拶をしようとしてもなかなか鳴りやまず 「サンキューベリマッチ」この一言を言うのにしばらく時間を要した。 「どうも暖かい拍手をありがとうございます。とうとう最後のステージになりました。アメリカ・日本両国にとって、悲しい戦争から半世紀しか経っていません。たった半世紀という短い時間で、お互いをここまで許し合えたことを神に感謝しております。 私たちはアメリカ独自の文化ジャズと出会いまだ短い時間ですが、そのジャズのおかげで、ここに皆さまとお会いできたことを重ねて神に感謝したいと思います。 これからも私たちは、ジャズを通じてアメリカと日本の心の交流をより一層深めたいと思います。ディキシーサミット最後のステージですがどうぞ楽しんでください。」 と言う気持ちを込めてただ一言 「サンキューベリマッチ」もし英語がしゃべれたらこう挨拶したかったのだが、悲しいかなただ一言 「サンキューベリマッチ」、ただただ残念である。 そこへいくと音楽は世界の共通語。二曲目「Bourbon Street parade」に突入。 マーチのリズムからアンサンブルへ。 この時客席の中から数人の傘を持った人たちが私たちの音楽にのって行進を始めた。 最近日本でも時々に見かけることがあるが、ここは本場アメリカである。 ステージ上からよく見ると、小さな子供も交じっている。 「この環境が日本にも有れば、もっともっとジャズが盛んになるのに」私はそんなことを考えながらボーカルに入った。行進をする人、手拍子を打つ人、空いているフロアーでは踊り始めた人もいる。行進をする人の中には車椅子で参加している人もいた。 ステージではそれをあおるように、私のスキャットとドラムの掛け合いである。 「ワーーーー!!!」すごい声援だ。なかなか次の曲に入ることができない。 3曲目「Big noise from wetnettka」小林ベースソロ。今日は靴底もステージ中央まで素直について行く。 ここでも「二人羽織」が行われたのはもちろんのことである。 もう一度説明をすると、楠堂浩己がスティック(太鼓のばち)を持って演奏を止めることなく、ベース小林正人の所に行く。小林真人は左手だけでベースの手盤を押さえる、そこをスティックだけで楠堂浩己が近寄りベースの弦をたたくのだ。絶妙なパフォーマンスである。 「ワーーー!!!」またもや、次の英二郎の紹介をするのも、しばしの間観客が静まるのを、待たなければの出来なかった。私は英二郎を紹介するときに次のようにコメントした。 「父親の私は色々な事情があり中学しか出ておりません。私の分も学校に行って貰いたく、本人の努力もあり日本では一番の東京芸大に入学することが出来ました。しかし彼はなんと十日間しか芸大に通っていません。そこに行くまでには、父親である私は大変沢山のお金がかかりました。英二郎のお母さんも泣いています。」今度はこれをたどたどしい英語で説明をした。英二郎のお母さんも泣いていると言う下りは 「ヒズマザー、クライ、アンド、クライ」話の内容が通じて笑ったのか、私の英語が面白くて笑ったのか判断に苦しんだ。 英二郎のソロの曲は「I've found new baby」超アップテンポだ。 コンサート四日目にもなると、英二郎のテクニックを聴きに来る客も大勢いる。もちろんその中には多くのミュージシャン混じっている。 今日は又一段とテンポが速い。ドラムと4バースの後、リズム全員が演奏を止る。英二郎一人がノーリズムで64小節一息で吹ききる。「立て板に水」とはこのことを言うのだろう。 「ワーーー!!!」観客全員がいっせいに「スタンディングオーベーション」である。 楠堂浩己のドラムソロの前に一度観客をクールダウンさせなくてはならない。 その役目を後藤千香に受け持って貰った。ただ一人ステージに残ってラグタイムを、物怖じすることなく、黙々と又堂々と、プレーしている姿は見上げたものである。 今度は今までと違った静かな拍手だ。 「後藤千香を選んで良かった」改めて後藤千香の認識を新たにした。 エンディングへのプロローグだ。観客はもちろんだが、多くのミュージシャンも楠堂浩己に感心を寄せている。曲はボランティアのリクエスト「Sing Sing Sing」これしかない。 楠堂浩己の「Do the best!」(全力投球)の精神は見上げたものである。どのようなステージでも手を抜いたというのを見たことがない。今日の演奏も見事であった。 「ワーーー!!!」英二郎に続いて「スタンディングオーベーション」このお役をこなせるのは彼しかいないだろう。 今度は私のしゃべり抜きだ。やむことのない観客の拍手を遮るように私たちなりのクロージングセレモニーにはいった。 まずサクラメントのあるカリフォルニアに敬意を表し、「California here I come」観客はいっせいに手拍子を始めた。向里直樹のバンジョーもなかなか良い。 間髪を入れずに最後の曲「上を向いて歩こう」のイントロへ。 これが最後の曲だと思うと心を込めて演奏せずに入られない。 「私の長い音楽人生の目標がこれだったのかな」走馬燈のように昔がよみがえった。 |
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