第二十四章
■スーパーマーケット■

 私は外国に行ったときは必ず楽器屋に行くことにしている。これで今回も私の希望が叶ったことになった。なんと言っても珍しい楽器を見るのが大好きである。
「おっ!珍しいコルネットがある」いわゆるビンテージものだ。思わず店のマスターに「ハウマッチジス?」「絶対に買いたい!」そんな気にさせる楽器だ。しかし以外にも「アイムソーリー、ジスイズナットフォーセール」残念非売品だ。
この店の経営者も私と同じで珍しい楽器を集めるのが趣味のようだ。向里直樹はリアルブックというジャズの曲集を購入していた。日本で買う三分の一の値段だ。私もこういう店にはいると我を忘れてあれもこれもほしくなるタイプだ。結局妻に促されて店を出ることにした。旅は始まったばかりだ。なにも今すぐ決めることではない。

「それもそうだ」と妙に納得をして今度は食料品の買い出しだ。
「ウヒャー!でっけー!」思わず声が出るほど、でかい、店が広いのだ。
「こいつらなにを考えてるんだ?」と言いたくなるような広さだ。また、陳列棚にある商品がめちゃくちゃだ。これもでかい。椎茸など直系二十センチはゆうにある。なすはラグビーボールほどある大きさだ。なにもかもが大きい。と周りを見渡してみると大きいのは野菜ばかりではなかった。人間も大きい。半端じゃなく太っている。もしこの一人でも日本にいたら間違いなく新聞に取り上げられることだろう。というぐらい太っている。日本では想像もできないほど太っている人が多いのだ。野菜や肉の大きさ、それに加えて人間の太っていること、これぞまさしくカルチャーショックだ。



久しく驚くことの無かった私は思わず
「世界は広い!まだ驚くことが残っていた」うなってしまった。
調味料などは日本から持ってきているので、肉、野菜、果物、生卵、など生鮮食品、それに加えて、アルコール以外の飲物を購入する。私はアルコール入りの飲み物は一歳口にしない。もうやめて六、七年にはなるだろうか。胆石の手術を、二十年ほど前にしている。
この手術をした人以外は分からないことと思うが、胆嚢摘出という関係上、一度に食べ物を胃に送り込むのは難しい。つい流動食であるビールを飲む羽目になる。これは結構な食事の代用品だ。瞬間的に力は出るし、満腹感もある。ということで三度三度食事の代わりにビールを飲んでいた。朝、昼、晩、夜、夜中、おまけに夜明け、そんなことが、およそ十二、三年続いたか、健康診断で肝臓に異常が見られた。おまけに、先生曰く、「完全なるアルコール依存症ですね」私は大変ショックだった。あまり酒は飲めないと言う自覚を持っていた自分はこの一言で、きっぱりとやめることを決めた。そのような訳でアルコールは一切口にしない。胆嚢摘出者は私一人のようでギターの向里直樹などは新聞紙をめいっぱい広げたほどの大きさのピザを3箱も買い込み、ビールだ、ウイスキーだと何となく酒の飲める人がうらやましくなった。

話は横道にそれたが、手にもてないほどの買い物をし、ホテルにチェックイン。ボランティアからホテルの設備についての、説明を受ける。アメリカ初日の夜ということで全員そろって食事に行く。さっきまで明るかったのでどのレストランもやっていると思ったら、なんと十時過ぎている。そうだアメリカにはサマータイムがあるのだ。結局お目当てのステーキハウスには入れずに、怪しげなシーフードレストランに入ることになった。サンフランシスコなら話は分かるが、これ程を海と離れたシーフードレストランも信用は出来ない。思った通り味は最悪だ。私はカニを頼んだのだがこれが大はずれ。とても食べられた物ではない。食事はそこそこにして今日昼間買い込んだ物で夜食をと決め込んだ。やはり私には基本的にアメリカのフードはあわない。
 
どうやらこううやら長い一日も終わりそうだ。時計を見ると午後十一時、外国へ来たときは日本時間のことは考えないようにしてはいるが、日本はお昼の三時だ。気持ちだけは夜中十一時だが、やはり初日である体が眠気を欲求してこない。しかしここで寝なくてはと無理矢理ベットにもぐり込む。外国はどうも枕が違って、ふわふわの羽毛枕、日本人はやはりそば殻の枕が一番だ。それにこのでかいとベッド、三回同じ方向に寝返りを打っても落ちる心配はないほどのひろさだ。ぶつぶつ言いながら眠りについた。

目が覚めたのは朝四時。少し何か腹に詰めようと思ったものの、こんな時間に妻を起こすわけにも行かずゴキブリよろしくキッチンをうろつく。昨日買い込んだバナナと食パン、それにミネラルウオーターで腹をふくらます。
「これじゃチンパンジーとかわりやしない」「アメリカに来てまでチンパンジーとは」
ぶつぶつ言いながらまたベッドへ。次に目が覚めたのが九時半。昨日十九ドルで買ったアメリカ製の炊飯器、日本製ほど利口ではない。単に炊くだけで、保温もなにもない。
「ここはアメリカだ我慢、我慢」
カリフォルニア米は思ったほどまずくない。こちらのマヨネーズもなかなかおいしい早速ポテトサラダを作り野菜中心の食事する。

 昨日は私の希望を取り入れて楽器屋とスーパーマーケットに行った都合上、今日はみんなの希望で、日本でもおなじみのアウトレットの店へ行くことになった。十一時にホテルのロビーに集合し出発。カリフォルニアの青い空とは良く言ったもので、
「こんな青空は東京ではまず見られない」メンバー全員がその空の透明度に驚くやら感心するやら。
車でおよそ一時間ほどの所にカリフォルニアでも有名なアウトレットの店に到着。これがまた広いの広くないのと、思わずうなってしまう。どのくらい広いのだろう。日本でもなじみのある有名メーカーの専門店が列をなしている。私はこれと言ってほしいものもなくウインドウショッピングとしゃれ込む。アウトレットと言いながらビックリするほど安いものはない。私はジャズのCDを5枚ほど買い、早めに集合場所の駐車場で待つことにした。が、とにかく日差しが強い。日差しが強い割には空気は大変乾燥している。不思議と汗はかかない。

 今回のアウトレットに行こうと言い出したのは、ピアノプレーヤーの後藤千香。自分が言い出しただけに張り切って一人で、掛けづり回っている。運転をしてくているボランティアのジェニーさんも、日本で言う布団を買っていた。英語で布団は何というのだろう。早速今回日本から持参した英和訳機にスイッチを入れて調べる。布団は「futon」
または「bedclothes」。時々日本語と同じものがあるのに驚くことがある。
たとえば大根もそうだ。大根は英語でも「daikon」他にも「カラオケ」など日本が発信地の言葉があるものだ。

 実は昨日のスーパーマーケットでは、一時間も有れば十分に買い物が出来ると思い、所要時間を一時間半にとったら、みんなとても時間が足りなかったようだ。そう言うこともあって今日はアウトレットという広い場所を考えて、3時間半時間にした。さすがに3時間半は、みんな時間を持て余したらしく、集合時間より大幅に早く集まった。予定より時間が余ったので、またもや楽器屋に行くことにした。もちろんこれは私の希望だ。
 私の楽器や好きにはメンバーも辟易しているようだ。楽器屋では、ほしいものも二、三有った。きっと日本に帰って後悔するとも思ったが、高い値が付いていたので買うのを断念した。

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